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AI化する前に、業務そのものを疑う
AIへ任せる前に、その仕事をなくす・まとめる・変える・単純化できないか考えます。業務改善の手順(ECRS)を踏まえ、残る仕事を人間・既存ソフトウェア・AIのどれへ任せるか判断します。
2026-10-03更新履歴
読む目的: 企画・対象範囲・投資判断 / AI導入・責任・評価
目次
生成AIが広がるにつれて、
この業務にAIを使えないか
という話を聞く機会が増えました。
もちろん、AIによって効率化できる業務は多くあります。
しかし私は、IT戦略やシステム企画を考えるときに、最初から「何をAI化するか」を考えるのは順序が逆ではないかと思っています。
AIを導入する前に、もっと根本的な問いがあります。
その業務は、そもそも残す必要があるのか。
業務そのものをなくせるのであれば、自動化する必要もありません。
複数の業務をまとめられるのであれば、それぞれにシステムを作る必要もありません。
手順を単純化できるのであれば、高度なAIを使わなくても既存ソフトウェアで十分かもしれません。
私は、IT戦略とは新しい技術を導入することではなく、
何を残し、何を変え、何をなくし、どこへ技術投資するかを決めること
だと考えています。
AI化する前に、業務そのものを疑う
業務改善では、ECRSという考え方があります。
- Eliminate:なくせないか
- Combine:まとめられないか
- Rearrange:順序や役割を変えられないか
- Simplify:もっと単純にできないか
AI活用を考えるときも、この順序は重要だと思います。
たとえば、毎月大量の資料を作成している業務があるとします。
そこで、
AIに資料作成を自動化させよう
と考えることはできます。
しかし、その前に確認するべきことがあります。
- その資料は本当に必要なのか
- 同じ内容を別の資料でも作っていないか
- 読んでいる人は誰なのか
- 必要な情報だけをシステムから直接確認できないか
- 資料という形式そのものをなくせないか
もし資料自体をなくせるのであれば、AIによる資料生成も不要になります。
不要な業務を高速化しても、不要な業務であることは変わりません。
Eliminate — まず、消せないか
最初に考えるのは、業務をなくせないかです。
これはAI活用に限りません。
システム開発でも、機能追加の要求を受けたときに、
本当にその機能は必要なのか
を考えることがあります。
機能を増やせば、
- 開発
- テスト
- 保守
- 問い合わせ対応
- セキュリティ対応
- 将来の移行
といったコストも増えます。
業務も同じです。
一度作られた業務は、その目的が薄れても残り続けることがあります。
その業務をAIで効率化するより、業務そのものをなくす方が大きな効果を得られる場合があります。
Combine — まとめられないか
次に考えるのは、複数の業務をまとめられないかです。
似たような情報を、
- Excel
- メール
- チャット
- 業務システム
- 会議資料
へ何度も入力しているのであれば、それぞれをAI化するよりも、情報の流れそのものを統合した方がよいかもしれません。
複数の業務をまとめることで、
- 入力回数を減らす
- データの不整合を減らす
- システム間連携を単純化する
- 管理対象を減らす
ことができます。
AIは情報の整理や変換には強いですが、そもそも同じ情報を何度も作る構造を残したままでは、根本的な改善にはなりません。
Rearrange — 業務の順序や責任を変えられないか
業務をなくしたり統合したりできない場合でも、処理の順序や役割を変えることで改善できることがあります。
たとえば、
人間が入力
↓
AIが確認
↓
人間が再確認
↓
システムへ登録
という処理があったとしても、本当にこの順序が必要とは限りません。
場合によっては、
システムが情報を取得
↓
AIが整理
↓
人間が例外だけ確認
という構造に変えられるかもしれません。
重要なのは、
現在の業務フローをそのままAIへ渡さないこと
です。
AIを入れるのであれば、人間、AI、既存システムそれぞれの役割を改めて設計する必要があります。
Simplify — AIを使う前に単純化できないか
業務を単純化できれば、AIが必要なくなる場合もあります。
たとえば、
複雑な条件をAIに判断させる
という設計を考える前に、
- 条件を減らせないか
- ルールを明確にできないか
- 入力形式を統一できないか
- UIで選択肢を制限できないか
を考える。
ルールとして表現できるのであれば、通常のプログラムやワークフローの方が適していることもあります。
AIは確率的なシステムです。
一方、従来のソフトウェアは決められた条件を正確に繰り返すことを得意とします。
だから私は、
決定論的に解ける問題までAIに渡す必要はない
と考えています。
その後で「何を自動化するか」を考える
業務を、
- 消す
- まとめる
- 変える
- 単純化する
という検討をした後で、初めて自動化を考えます。
そのときも、選択肢はAIだけではありません。
業務課題
↓
業務そのものをなくせないか
↓
統合できないか
↓
手順や責任を変えられないか
↓
単純化できないか
↓
残った業務をどう実行するか
残った業務に対して、
- 人間が行う
- 既存ソフトウェアを使う
- ルールベースで自動化する
- RPAを使う
- API連携する
- AIを使う
といった手段を選びます。
ここで初めて、AIが選択肢の一つになります。
AIが向いている仕事、既存ソフトウェアが向いている仕事
すべての処理をAIへ寄せる必要はありません。
AIが得意なのは、たとえば、
- 曖昧な自然言語の理解
- 非構造データの処理
- 情報探索
- 要約
- 分類
- 複数候補の生成
- 人間向けの説明
といった処理です。
一方で、既存ソフトウェアが得意なのは、
- 決められた計算
- 同じ処理の繰り返し
- 厳密なデータ更新
- トランザクション処理
- 権限制御
- 決定論的な業務ロジック
です。
そのため、
曖昧な処理はAIに、確定した処理は既存ソフトウェアに
という責務分離も考えられます。
重要なのは、
AIでできるか
ではなく、
AIに任せるべきか
です。
AIはDXの一部でしかない
AIは強力な技術です。
しかし、AIそのものが目的になるわけではありません。
企業が解決したいのは、
- コストを下げる
- 売上を増やす
- 品質を上げる
- 顧客体験を改善する
- 人手不足を補う
- 意思決定を速くする
といった経営・業務上の課題です。
AIは、そのために使える技術の一つです。
クラウドやRPA、データ分析、既存システムの改修と同じように、目的に応じて選択する手段です。
だから私は、
「AIをどこへ導入するか」から考えるのではなく、「何を変える必要があるか」から考える
ことが重要だと思っています。
IT戦略とは、技術を増やすことではなく選択すること
IT戦略というと、新しいシステムや技術を導入する話になりがちです。
しかし、私はそれだけではないと考えています。
IT戦略では、
- 何を作るか
- 何を作らないか
- 何を残すか
- 何を統合するか
- 何を終わらせるか
- 何を人間に残すか
- 何をAIへ委譲するか
- どこへ技術投資するか
を決める必要があります。
そして、その判断をArchitectureへ落とし込む。
経営・業務課題
↓
業務を消す / まとめる / 変える / 単純化する
↓
残す業務を決める
↓
人間 / 既存システム / AIの役割を決める
↓
技術投資の優先順位を決める
↓
Architectureへ落とし込む
私は、この順序で考えることがIT戦略やシステム企画の役割だと思っています。
何でもAI化しない
AIが進化すると、
AIで何ができるか
に目が向きます。
しかし、技術的に可能であることと、それを採用するべきことは同じではありません。
場合によっては、
AI化しないことが最も良いAI活用判断になる
こともあります。
業務をなくせるのであれば、なくす。
まとめられるのであれば、まとめる。
単純化できるのであれば、単純化する。
既存ソフトウェアで十分なのであれば、それを使う。
その上で、本当にAIが必要な部分だけにAIを使う。
IT戦略は「何をAI化するか」から始めるのではなく、
何を消し、何をまとめ、何を変え、何を残すかを考えるところから始まる。
私は、その先に初めて意味のあるAI活用があると考えています。