事例実践事例 / 公開物 / case
第1章 仕様を答えられない状態から、復元すべき情報を決める
UI中心の古い仕様書では問い合わせに答えられなかった背景を示す。廃止できないシステムを使い続けるため、コード・実動作・既存知識から現行仕様を再構成する出発点を説明する。
2026年3月更新履歴
読む目的: 自然言語サービス・RAG・ナレッジ / AI × ソフトウェア開発 / 事例・実務
このBookの目次(全12章)
- 全体構成
- 第1章 仕様を答えられない状態から、復元すべき情報を決める
- 第2章 対象システムの変更を妨げる構造と知識の不足を整理する
- 第3章 調査の起点を作るため、ファイルとクラスの役割を整理する
- 第4章 コードから仕様と依存関係を復元する
- 第5章 処理の流れを復元し、変更影響を追えるようにする
- 第6章 人が読む仕様とAIが使うKnowledgeを分ける
- 第7章 UI操作と内部処理を結び付け、操作結果を追えるようにする
- 第8章 復元したKnowledgeを、根拠を確認できるQAへつなぐ
- 第9章 正しさ・出典・回答拒否から、QAの利用可否を評価する
- 第10章 評価結果をKnowledgeと回答範囲の改善へ戻す
- 第11章 仕様変更に追従できるKnowledge更新フローを作る
- 第12章 QAで暗号処理を調査し、人間の変更判断へつなぐ
現在位置:第1章・全12章
廃止できないシステムで、仕様の問い合わせに答えられない
担当したのは、約20年前に当社の中心的なソフトウェアとして開発された、多機能なシステムだった。独自の機能を長年使う利用者・愛用者が多く、終了を検討したことはあっても、単純には廃止できなかった。
担当して間もなく、社内から仕様について問い合わせを受けた。
既存仕様書には画面、ボタン、操作手順の説明があったが、内部構造や処理フローはほとんど書かれていない。古い記述も更新されておらず、その日のうちに資料だけで明確な回答をすることはできなかった。
結局、ソフトウェアを実際に動かして挙動を確認する必要があった。現在の担当者も詳細を把握できず、長期間担当している委託作業者だけが知る情報もあった。仕様書が存在していても、現行仕様へ到達できる状態ではなかった。
調査のたびに答えを探し直す構造を変える
内部仕様が社内で共有されていないため、小さな調査や軽微な変更も委託へ依存していた。人件費の高騰もあり、委託費削減は部門の課題だったが、問題は費用だけではない。社員の調査・理解にかかる時間や、意思決定の遅れも積み重なっていた。
既存仕様書を整形し直すだけでは、欠けている処理や背景は埋まらない。
ソースコードを確認の起点とし、UI、実動作、既存資料、担当者の知識を合わせて、現在の仕様と構造を再構成することにした。
古い資料は調査材料として使い、記載があることだけを正しさの根拠にはしなかった。
全面刷新より先に、理解と変更の材料を作る
新規開発や全面刷新を先に進めても、何を維持し、何を変えるかを説明するには現行システムの理解が必要になる。
そこで、まず調査結果を他の人も参照できる形に残し、仕様の確認や変更の検討へ再利用することを優先した。
目標は、委託費だけでなく、社員の調査・理解・判断にかかる工数を減らすことだった。単に仕様を抽出するのではなく、必要な情報を探し、根拠を確認できる状態を作る。
次章では、そのために何を把握する必要があったかを、対象システムの構造から整理する。