事例実践事例 / 公開物 / case
04. RAG / Knowledgeをどう設計したか
検索で見つかった文書でも、顧客への回答根拠として使えるとは限りません。製品・機種・版数・公開可否を確認し、RAGが参照してよいKnowledgeの範囲を設計します。
2026-09-28更新履歴
読む目的: 自然言語サービス・RAG・ナレッジ / 事例・実務
このBookの目次(全9章)
目次
現在位置:第4章・全9章
Semantic Similarityは回答資格ではない
RAGで問い合わせに似た文書を検索できても、その文書を回答根拠として使ってよいとは限りません。類似機種の障害情報、古い版の手順、調査中の内部情報は、意味的には近くても顧客への回答には不適切です。
Semantic Similarity ≠ Business Validity
そこで検索を「似ている文書を探す処理」だけで終わらせず、業務上利用できるKnowledgeへ絞り込む処理として設計します。
横断検索の前に揃えるもの
情報は、文書管理、問題管理、問い合わせ管理など複数の既存システムへ分散しています。各システムが異なる機種名や分類を使っていると、検索対象を安全に限定できません。
このケースでは、次の属性を共通化する考え方を採ります。
| 属性 | 制御する理由 |
|---|---|
| 対象機種 | 類似する別機種の情報を回答へ混ぜない |
| 版数・有効期間 | 現在の画面や設定手順と異なる旧版を除外する |
| 公開可否 | 開発中・調査中・社内限定の情報を顧客へ出さない |
| 問い合わせ分類 | 操作、設定、障害など、検索対象と判断基準を切り替える |
| Provenance | 情報源と確認状態を追跡できるようにする |
Knowledge Sourceを回答資格で分ける
同じ文書基盤へ格納できても、用途は同じではありません。
例えば顧客向けマニュアルと確認済みFAQは回答根拠になり得ますが、調査中の障害メモは担当者の調査候補には使えても、顧客向け回答の確定根拠にはできません。
| 情報源 | 検索対象 | 顧客回答の根拠 | 必要な制御 |
|---|---|---|---|
| 公開マニュアル・仕様 | 可 | 対象機種と版が適合すれば可 | 版数、有効期間、公開状態 |
| 確認済みFAQ | 可 | 適用条件が一致すれば可 | 対象条件、確認者、更新日 |
| 確定した障害情報 | 可 | 公開承認された範囲のみ可 | 影響範囲、回避策、公開可否 |
| 調査中メモ・社内記録 | 担当者支援に限定 | 不可 | アクセス権、用途、状態 |
| 過去の会話 | 改善分析に利用 | そのまま根拠にしない | 個人情報、正誤、再利用目的 |
この区別により、「検索できる文書」と「顧客への回答根拠として使用してよい文書」を同一視しません。
Retrievalを段階化する
+の付いた項目を選ぶと、詳しい説明が下に表示されます。
詳しい説明
気になる項目を選ぶと、その役割や判断理由を確認できます。
問い合わせと対話で得たContext
問い合わせと対話で得たContext。次の工程:対象機種で絞る。
対象機種で絞る
対象機種で絞る。次の工程:有効な版で絞る。
有効な版で絞る
有効な版で絞る。次の工程:顧客へ公開可能な情報へ絞る。
顧客へ公開可能な情報へ絞る
顧客へ公開可能な情報へ絞る。次の工程:意味検索 / キーワード検索。
意味検索 / キーワード検索
意味検索 / キーワード検索。次の工程:回答根拠として十分か。
回答根拠として十分か
回答根拠として十分か。次の工程:Yes:生成AIへGrounding Contextを渡す/No:人間へ引き継ぐ。
生成AIへGrounding Contextを渡す
生成AIへGrounding Contextを渡す。この工程の位置と前後のつながりを確認します。
人間へ引き継ぐ
人間へ引き継ぐ。この工程の位置と前後のつながりを確認します。
メタデータによる絞込みは、Vector Searchの結果を補う後処理ではありません。検索してよい母集団を先に決めるGuardrailです。
その上で意味検索やキーワード検索を使います。
ChunkとRankingを文書構造に合わせる
一定文字数だけで分割すると、手順の前提と操作、警告と対象条件が別Chunkへ分かれることがあります。このケースでは、見出し、手順単位、注意事項、対象機種の境界を優先し、前提条件を失わない単位でChunkを作る設計とします。表や箇条書きも、行だけを切り出して意味が変わらないかを確認します。
Rankingでは意味的類似度だけでなく、対象機種・版の完全一致、文書種別、公開状態、更新状態を組み合わせます。上位に来たという理由だけで採用せず、回答に必要な条件が一つの根拠内で満たされるか、複数根拠を併用するときに矛盾がないかを判定します。
回答には、利用した文書ID、版、該当箇所をEvidenceとして結び付けます。引用表示は装飾ではなく、顧客または担当者が回答の根拠を確認し、後から同じ判断を再現するための参照です。
矛盾と廃止を通常系として扱う
新旧文書が同時に検索対象へ残る、FAQと仕様書で説明が異なる、といった状態を例外的なデータ不備だけとして扱いません。矛盾を検知した場合は生成AIに統合させず、回答を停止してKnowledge Ownerへ返します。
廃止文書は削除だけでなく、後から回答時点を追跡できるよう状態と有効期間を保持します。
Knowledgeを運用対象にする
文書を登録して終わりにはしません。新機種、版更新、公開状態の変更、FAQの追加、障害情報の確定に合わせて、属性と検索条件を更新する必要があります。
また、検索に失敗した問い合わせを記録すれば、文書が存在しないのか、分類が誤っているのか、機種の対応付けが不足しているのかを切り分けられます。RAGの品質はモデルだけでなく、Knowledgeの状態と運用で決まります。
この責務分離は、Instruction・Knowledge・EvidenceとKnowledge / Context設計で詳しく扱っています。