事例実践事例 / 公開物 / case
05. AIをどこで止めるか
根拠がない、機種が分からない、専門判断が必要なときには、AIの回答を止めます。高影響な操作や非公開情報も停止条件として整理し、人へ引き継ぐFail Safeを設計します。
2026-09-28更新履歴
読む目的: AI導入・責任・評価 / 事例・実務
このBookの目次(全9章)
現在位置:第5章・全9章
回答できそうかではなく、回答してよいか
生成AIは、根拠が不足していても自然な回答を組み立てられます。顧客向けQAでは、その能力を回答条件にしてはいけません。
回答の可否は、生成AI自身の自信ではなく、システム側で確認できる条件から決めます。条件を満たさない場合は、回答文を工夫して続行するのではなく停止します。
停止条件
このケースでは、少なくとも次の場合を人間への移行条件として扱います。
- 対象機種と版に適合する根拠を取得できない
- 追加質問を行っても原因を絞り込めない
- 症状の切分けや個別調査など、専門判断が必要である
- 設定変更、データ消失、安全性などへの影響が大きい
- 顧客へ公開できない情報しか見つからない
- 複数の根拠が矛盾し、どれを採用するか決められない
停止判定をシステム条件へ落とす
停止条件はPromptへ「不明なら回答しない」と書くだけでは実装できません。対話、検索、生成、実行の各段階で、システムが確認できる状態として保持します。
| 段階 | 確認する状態 | 停止時に残す理由 |
|---|---|---|
| 対話 | 機種・版・症状を回答可能な粒度まで特定できたか | target_unresolved、未確認項目 |
| Retrieval | 公開可能で有効な根拠を取得できたか | evidence_missing、検索条件 |
| Evidence | 根拠間の対象・版・手順が矛盾していないか | evidence_conflict、競合文書 |
| 判断 | 専門判断や高影響操作を含まないか | human_judgment_required、影響範囲 |
| Generation | 回答の各主張を根拠へ対応付けられるか | unsupported_claim、未対応箇所 |
理由コードは顧客へ機械的に露出するためではありません。有人引継ぎ、失敗分類、再評価で同じ停止を追跡するために使います。顧客には「情報が不足している」「専門担当者の判断が必要」など、次の行動が分かる表現へ変換します。
+の付いた項目を選ぶと、詳しい説明が下に表示されます。
詳しい説明
気になる項目を選ぶと、その役割や判断理由を確認できます。
開始
開始。次の工程:問い合わせ受付:Collecting。
Collecting
Collecting。次の工程:必要情報がそろう:Retrieving/情報を特定できない:Human。
Retrieving
Retrieving。次の工程:適合する公開可能な根拠:Answering/根拠不足 / 矛盾 / 非公開:Human。
Human
Human。次の工程:終了。
Answering
Answering。次の工程:低リスクで回答可能:Completed/専門判断 / 高影響:Human。
Completed
Completed。次の工程:終了。
終了
終了。この工程の位置と前後のつながりを確認します。
Fail SafeとしてのHITL
Human in the Loopは、AIの回答を毎回人が承認することだけを意味しません。低リスクで条件を満たす問い合わせは自己解決へ進め、境界を越えるものだけを人間へ戻す設計もHITLです。
重要なのは、人間へ戻すことが例外処理として後付けされていないことです。停止条件、引継ぐ情報、人間が判断を再開する位置を、通常のWorkflowとして定義します。
停止は失敗ではありません。誤った回答を避け、専門性を必要な場所へ集中させるための正常な結果です。詳しい状態設計は、責任境界と状態遷移を参照してください。
Confidence Scoreを単独の責任者にしない
検索スコアやモデルの自己評価は、順位付けや調査支援には使えます。
しかし閾値を一つ置くだけでは、別機種の高類似文書や、流暢だが根拠のない回答を止められません。このケースでは、機種・版・公開可否・影響度のような決定的な条件を先に適用し、その条件を通過した候補にだけスコアを使います。
人間はAIの低スコアを承認する役ではなく、システムが越えてはならない境界の先で、専門判断を引き受けます。次章では、この停止を顧客にとって行き止まりにしないUXへ変換します。